三木ヱ門視点
小松田さんから夏休みの宿題が書かれたプリントが配られてきて、学園では一気に夏休みモードに突入した。
今回の宿題は、個人メニューで、ひとつとして同じく宿題はないらしい。
それはつまり、人のを書き写したりできないということであるからみんなそわそわと茶封筒を開いていく。
安堵のため息や悲痛な唸り声を聞きながら、私も自分の茶封筒を開いた。
「まぁ、こんなものか」
書かれていたのは尻込みするほどの難問ではないが、軽く終わらせれるほどの簡単なものでもない、つまり適度な宿題であった。
隣の教室から滝夜叉丸が憤慨して叫ぶ声が無理やり耳に入ってきてイライラしながら、私は隣のに声をかけた。
「お前はどうだ?」
しかし、返事がない。
いぶかしく思い、顔を向けると、は石のように固まっていた。
その手に、宿題が書かれたプリントを持って。
「なんだ、苦手な生物系の宿題だったのか?」
力の加減のできないは動物に近づくのを嫌い、また、動物から嫌われている。
一度、授業で生物小屋に行ったときは動物が一斉に興奮し、蜘蛛の子ちらすように小屋から脱走されて、その日の授業は脱走した生物探しにおわれたという苦い苦い思い出がある。
その時は、が奇妙な忍具で一網打尽にしてくれたが・・・。
「いいや、ちがう」
は首を振った。
その顔が強張っている。
いったい何が書かれているのか。
覗き込んだ私は、絶句した。
「・・・・・・・・・これは本当に四年生の宿題か?」
「・・・・・・・だが、これが入ってた」
いやいやいや、これは無理だ。
無謀だ。
七松先輩とトライアスロン勝負して大差で勝てといわれるのと大差ない不可能な宿題だった。
が私をすがるように見つめてくる。
「三木ヱ門・・・・・」
しかしながら、私が手伝った程度では成功できようもない宿題だ。
私はそっと、に愛するものを差し出したのだった。
「サチコを貸そうか・・・・?」