「喜三太がこないのだよ」
がぽそりと呟いた。
雷蔵の背中に頭をこつんと当てて、俯いている。
「あの子は登校するのは早いほうで、私が着くころにはとうに着いていて。なめくじがたくさん入っているあの壺を両手に抱えて、笑顔で挨拶してくれるのだけれども」
両手が縋るように雷蔵の服を掴む。
「こないのだよ」
勘右衛門がの背中をさすり、八左ヱ門がの頭を撫で、三郎と兵助が先生に現状を聞きに走った。
雷蔵は手が届かない代わりに、できうるかぎり優しく声をかけた。
「それはとっても心配だね」
「うん。心配だ」
「でも、大丈夫さ」
雷蔵が言うと、は雷蔵から額を離して、小首をかしげた。
「めずらしくはっきりと断言するね、雷蔵」
雷蔵はぐるりとを振り返って、小刻みに震えているの手を自らの手で包み込んだ。
「断言できるよ。だって、僕たちがどうにかするんだもの」