園田村の事件が無事完結し、忍術学園にはいつもの日常が戻って来つつあった。
が、学級委員長委員会の委員長であるには戦い後にも仕事が残っていた。
園田村の復興に手を貸し、タソガレドキ軍の制札を村々に渡しに行き、学園長に事後報告をして学園に着いたのは皆に2日も遅れてであった。



「ただいまー・・・」



ヘトヘトな状態で忍たま長屋にたどり着いたを迎えたのは小平太だった。



「おかえり!」
「つかれたぞ、まったく」
「おお、それはお疲れさま!」



部屋の入り口で力つき、床に突っ伏したを、小平太が撫で撫でする。
それがなかなか心地よく、目を閉じただが、頭を撫でているその手が左手であることに違和感を覚えた。

小平太は両手で苦無を扱える隠れ両利きだが、普段は右しか使わず、頭を撫でるためだけに左を使うわけがないのだ。



「小平太?」



目を開けたは。



「なんだ?」
「ぎ、」
「ぎ?」
「ぎゃああぁぁあああああ!!!?」



二カッと笑う小平太を見て、悲鳴を上げたのだった。

砲弾をレシーブしてはいけませんとあれほど・・・。

水色の世界Ver

  




の声はよく通る。
学園長の離れに届かんばかりのそれに先生も生徒も飛び上がった。



「何だ!?」



いち早く部屋に着いたのは、偶然近くを通りかかった留三郎と仙蔵だ。
留三郎は部屋の入り口にへたりこんでいるを見るとすぐさま駆け寄ったが、仙蔵は変わらず悠然と歩き続けて、そうしてを見下ろした。



「くせ者でも出たか!」



留三郎が苦無を取り出す。
はがたぶる震える人差し指を伸ばした。



「し、師匠・・・・あれ・・・・あれ!!」
「あれとは何だ。簡潔に言わんか」



仙蔵はの指さした先を見やり、首を傾げた。



「小平太がいるだけじゃないか」



部屋には小平太一人だけ目をぱちくりさせて立っていた。
布団が一組あるが、それは小平太が出しっぱなしにしていただけのもの。
何の変哲もない。

留三郎は口をパクパクさせるばかりのから話を聞くのはあきらめ、小平太に問いかけた。



「小平太、何があった」



小平太は肩をすくめた。



「別に何にもないんだがなぁ」



その間にも叫び声を聞きつけた生徒が様子を窺いに続々と来ている。
その中には庄左ヱ門や彦四郎ら学級委員長の姿もあった。
三郎の奇行に離れている彼らも、の一大事には戦々恐々といった感じである。



「大丈夫だよ。たまにあることだから」
「野次馬している暇があったら鍛錬しろ!」



そわそわと落ち着かない彼らを宥めすかし戻らせながら、文次郎と伊作が遅れてやってきた。



「これは何の騒ぎだ」
が帰ってきたんだね。でも、叫び声をあげてどうしたんだい?」



声を聞いたとたん、がはじかれるように立ち上がった。
ぐるんと振り返り、伊作に掴みかかったではないか。



「伊作伊作伊作!! 小平太が怪我してる!」



泣きそうな顔で言ったのは、それであった。



「どんな怪我でも一コマで治る小平太が怪我してる!!」



が反応したのは白い布につるされた小平太の右手だったようだ。



「え? 怪我をしていることを知らなったの?」



戦いの最中に、最前線で、とても目立つ状況の中で負傷したのに。
なんでだろう?と小首を傾げた伊作は答えを求めるように周囲の友達を見やったが、皆一様に首を傾げていた。

助け船は、遅れてやってきた。



は学園長に付き添っていたから一度だって園田村に来ていない」
「長次!」
「だから怪我をしたことも知らなくて当たり前だ」



長次が、未だ心配して部屋を窺っていた生徒の間を割って登場した。
そして、伊作を掴んでいるの両手をやんわりと放す。



「すぐ治る」



すると、はらはらしていた小平太が「なーんだ」と息をついた。



「こんな怪我どうってことないぞ。は心配性だなぁ」
「まぁ、小平太がこんな大げさな手当を受けることなんて滅多にないからな」
「あぁ、たしかに」



留三郎が呟くと、犬猿の仲である文次郎が同感だと頷いた。

明日は雨になる。

なんていつもの軽口をたたく余裕もまだ無いは、おそるおそる小平太の手にふれた。



「けど、どうしてこんな怪我を?」



それに返事をしたのは小平太ではなく仙蔵だった。



「かくかくしかじか、ということがあってな」



右手に角と書かれた将棋の駒、左手に鹿のぬいぐるみをつけて言う様はなんとも形容しがたい。
微妙に顔をゆがめた文次郎と留三郎の隣で、は小平太に噛みつくように詰め寄った。



「砲弾をレシーブしようとしただと!?」
「いまので通じるの!!?」
「バレーボールだけにしろってだから言い聞かせたのに」
「何を言っても無駄だろ」
「もそもそ」
「ああ、長次の言うとおり、小平太だから仕方がない」



伊作のつっこみは全員にスルーされた。
しゃがみこんでのの字を書き始めた伊作を仙蔵だけがそっと慰める。

は小平太の頭に手を乗せた。



「心配させるなよ」
「うん。ごめんな」



伊作のしくしくの声をBGMに騒動は一件落着。

かくして忍術学園に平穏が戻ってきたのだった。