会議よ 勝手に踊っとけ 俺は先に進んどく
新学期の前日。
桜舞い、風香り、清々しい気分で、新しい学びを待つ。
そんな穏やかな心地を味わっていただが、嵐が巻き起こることを予期していた。
忍タマ長屋で一人静かに目を閉じて正座をしているの背後に、音もなく紺色の影が降りた。
「お久しぶりです、先輩」
5年ろ組の鉢屋三郎であった。
自他共に認める変装名人である彼は、今日も今日とて同じ5年ろ組の不破雷蔵の顔を借りていた。
「久しぶり三郎。新学期が始まる前に呼び出して悪かったな」
は振り返ることもなく言う。
「いえ、それは一向に構いませんが・・一体どうして新学期前に来いだなんて・・・」
最初から本題に話を進めた三郎に対し、は躊躇するような素振りを見せつつもしっかりと三郎の方を向き直り、言った。
「新学期の始まりにある一大イベントが理由だといえば、思い当たるだろう?」
「え。・・・あぁ、そういうことですか」
心得たとばかりに三郎はにこりと笑い、のむかいに腰をおろした。
新学期。
それは委員会のこれからを大きく左右する行事が行われることも同時にさしている。
一大イベント、すなわち、予算会議。
「どの委員会も予算をもぎろうと必死ですからね、後の始末は毎度大変ですが。そんなに気張るほどのことでもないでしょう?」
学級委員長委員会に所属していると三郎は、会議そのものに参加したことはない。
そもそも、予算を必要としたことがないのだから、もっぱら会議時の仕事といえば、事故が外部へ及ばないように対処を講じることぐらいであった。
「前回まではな。それでよかったんだが、今年は違うんだ三郎」
の青い瞳が三郎を見据える。
その瞳はどことなく怒りに燃えていた。
「今年は、俺たちも予算を取りに行くことになった」
「ええっ!!?」
驚きのあまり、三郎はににじり寄った。
「一体全体どうして!」
とたん。
の口元がゆがんだ。
「ふふふ・・・三郎、職員会議がある際、その場を整えるのも学級委員長委員会の仕事の一つだということはお前も知っているだろう?」
「は、はい」
そのあまりの迫力に、尊敬する先輩ではあれども三郎は腰が引けた。
「会議の場に出てくる茶菓子、あれは誰が用意していたと思う?」
問われて、三郎はすぐには答えられなかった。
席の準備には携わるのだが、そういえば茶菓子はいつも用意する前からそろっていた。
だから、茶菓子は食堂のおばちゃんが用意したものだろうと思っていた。
のだが、はそれを否定した。
「あの茶菓子は、俺が、学園長に、学園長命令だと強制的に、街まで買いに行かされ、用意していたんだ」
「先輩が用意してたんですか! 道理で趣味のいいお茶菓子しか並ばないと・・・」
褒める三郎にの視線が刺さる。
「しかも! 学園長は茶菓代を俺にまともにはらってくれたことがない」
ゆらりと、の後ろを淀んだ雲が覆う。
「フィギュア? ポラロイド? はっ、笑わせてくれる。そんなんで腹が膨れるんだったら戦なんてとうに無くなってるだろうよ!!」
「せ・・・先輩?」
「と、話がずれたが、ともかく、予算を文次郎からがっぽり取ることになったから、三郎を呼んだんだ。なぁに、心配するな」
は正座をくずすと片膝を立てて、そこらへんの山賊もびっくりな柄の悪い笑みを浮かべた。
「既に手は打ってある。我らの顧問となった学園長と結託し、予算を計上し終えた」
そうと言うとは、懐から紙を取り出し、三郎に渡した。
「あとはそれを、会計委員にばれないようにこっそりと予算書に紛れ込ませるだけだ」
つまり、予算会議には参加はしないが、もらえるように潜ませておけと。暗に言っているようなものだ。
予算会議? 何それおいしいの。
三郎としても、毎度毎度ボロボロになって帰ってくる友を見ている手前、予算会議に出ましょうなど、口が裂けてもいえない。
受け取った三郎は中身を読んで、そろそろと顔を上げた。
「先輩、これは打合せ雑費食事茶菓代にしては多いのでは」
「ん? どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです」
三郎を見つめるの笑顔は太陽すら影って見える。
「任せたぞ三郎」
かくして、学級委員長委員会の初めての予算会議が、誰も知らぬ間にはじまり、勝手に終わっていたのであった。
<END>
原作43巻の予算委員会を見て。思い浮かんだのでつらつら書いてみました。