守りたかったもの














世界が暗い。
真っ暗で、よく見えない。

は目を開こうとした。
しかし、重たくて思うようにいかない。
それは昼ご飯後の眠い眠い教科授業のまどろみに似ていた。
目をつぶっていた方が、楽なのだ。

そう思った。
しかし。



「?」



の耳が、かすかな声を聞いた。
とても、遠くから呼びかけられているようだ。

いかないで。

いかないで。
そっちじゃないよ。

地団駄踏みながら叫んでいるそれは。



「小平太」



おねがい。
こっちにきて。

もどってきて。

ぴーぴーと泣くそれは。



「長次」



大事な、大好きな友だちのものだった。

何で泣いているのか。
何がそんなに悲しいのか。
俺がいるじゃないか。

ここに、いるじゃないか。

力を振り絞る。
水色をした世界に向かって、鉛のように重たい手を伸ばす。

そうだ。
長次と二人でお使いに出たんだ。
簡単なお使いだったはずなのに、プロの忍者に襲われた。

勝てるわけなんてなくて。
でも、逃げ切れる力すらなくて。
長次の攻撃を避けた敵が、手裏剣を投げてきたんだ。

とっさだった。
体が動いた。
長次の前に立って、そうして。

その後のことを、全く覚えていない。



長次。
長次は無事なの?
どこにいるの!?



と、口に出したはずなのに。
聞こえてきたのはひゅうと風の鳴る音。

不思議だ。
自分の体でこんな音を聞いたのは初めてだ。
それに、どうしてだろう。
焼けるように、喉が痛い。

それでも一生懸命、表現した。

長次。
生きてる?
生きてるの?
傍にいるの?

如何しても確認したくて、は手を宙に伸ばした。



「・・・っじ。ちょ・・じ」


どこにいるの。
俺はちゃんと、今度こそ、守れたの?

必死に伸ばした手が、握り返された。
の手よりも少し大きな、人差し指に大きな豆のある手。
その手には確かに、体温があった。

ああ。
長次の手だ。

耳を澄ませば、の耳が確かに心音を捉えた。
それもまさしく。



「・・・・っ」



その声も。
間違いがない。
長次のものであった。



「ちょ・・・・じ」
「うわーん、!!!」



長次と繋がっている反対の手を握る、体温の高い手。
ガラガラになっているその大声は小平太のもので。

守れたんだ。
今度はちゃんと、守れた。

はほうと息をついて、深い眠りに戻ったのであった。















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