我らが学級委員長委員会委員長





















それは、土井半助のグチがはじまりであった。



「山田先生の影響でしょうか。一年は組のよい子たちは本当に女装の出来が悪くて・・・・」
「まあ、土井先生も大変ねえ」
「本当ですよ。・・・ほかの先生方に指導をしてもらった方がいいのかとも思ったんですが・・・。もしくは、立花仙蔵のような上手な先輩に指導させてみるとか・・・」



食堂でおばちゃんと会話をした土井。
二人だけだと思われたそこに、実はもう一人、会話を聞いていた者がいたのである。



「ふむ。女装を見てもらうか・・・。いいことを思いついたぞ」



そして、次の日に『いいこと』は実行されたのである。



「一年生は全員女装の授業じゃ」
「えーっ!!?」



一年生のみ校庭に集められて告げられた内容。
ナイスアイデアだと胸を張る学園長以外は全員がさえない顔である。



「女装を先輩に見てもらい、三つ以上の『合格札』をもらうのじゃ。ちなみに、一番多くの札をもらった生徒にはご褒美があるぞ!」
「ご褒美ーーっ!!」



どケチのきり丸が目を輝かせ、女装授業は幕を開けたのである。


















「はあ・・・・・」



佐武虎若は『合格札』を見つめ、深いため息をついた。
女装授業が始まって三時間経つというのに、虎若はたった一つしか札が集まっていなかった。

虎若の所属する生物委員は一年生の割合が多く、札をくれる先輩が二人しかいない。
五年生の竹谷八左ヱ門は、『大変だなぁ』と言いながら、女装の善し悪しを気にせず札をくれたが、三年生の伊賀崎孫兵は『下手だな、出直してこい。僕はそんなことよりジュンコを散歩につれていくことの方が重要なんだ。さぁ、いくよジュンコ』といった具合に不合格を告げられたのである。



「はあ・・・・・」



俯いていた虎若は、自分のものとは違うため息を聞いて、顔を上げた。
向こうの廊下を、同じは組の加藤団蔵が歩いている。

口紅と頬紅が異常に濃い団蔵が・・・。



「どうしたの、団子ちゃん」



女装授業中のため、そのように若虎が話しかけると、団蔵は弾かれるように顔を上げ、周りをきょろきょろとみ渡し、虎若を見つけた。



「虎子ちゃん」
「どうしたの? ため息なんてついて」



虎若が問うと、団蔵は虎若に駆け寄りため息混じりに札を一つみせた。
それは、札が一つしかもらえていないというアピールだろう。

虎若は首を傾げた。



「団子ちゃんの会計委員会は先輩が三人いるでしょう? ちょうど合格になるはずじゃない」
「分かってない。虎子ちゃんは分かってない! わたしの会計委員長はギンギンに忍者してる潮江文次郎先輩だよ!!」



団蔵曰く。



『バカタレぃ!! そんなヘタな女装をして忍者がつとまるか!』



と、委員長に追い返され。
三年生の神崎左門は今日もどこかで迷子になっており、あうことができず。
哀れに思ってくれた四年生の田村三木ヱ門一人が札をくれたという。



「・・・・・団子ちゃんも苦労しているんだね」
「うん・・・・」



俯く二人に、「おーい」と呼びかける声。

胡乱げに顔を上げれば、またもやは組の学級委員長、黒木庄左ヱ門と、火薬委員の二郭伊助の姿があった。
ダメダメな女装と言われるは組の中では比較的まともな方に入るかわいさであった。

虎若と団蔵は顔をゆがめる。
すると、庄左ヱ門が真顔で言った。



「まだ札はそろってないよ」



自慢しに来たと思ったんでしょ。
と、いつもと変わりなく冷静な庄左ヱ門。



「え。そうなんだ、ごめんごめん」



謝る団蔵に対して、虎若は目を丸くした。



「え! 庄子ちゃんと伊子ちゃんも合格してないの!?」
「してないよ。久々知先輩とタカ丸さんはくれたけど、池田先輩はくれなかったし」
「僕は鉢屋先輩と、鉢屋先輩と一緒にいた不破先輩の二人から札をもらったばかり」



伊助と庄左ヱ門は気分を悪くすることなく答えた。
庄左ヱ門は続けて言う。



「これから僕たちは北の井戸の修理をしてる学級委員長委員会の委員長、六年ろ組の先輩のところに行くんだけど、どう?」
先輩ー?」



札をもらえるなら両手を降っていきたいところだ。
が、虎若も団蔵も、その先輩のことを知らない。

団蔵が困ったと頭を傾けた。



「でも、初めて会う僕たちにも札をくれるかなぁ」



虎若も団蔵も、贔屓目にみたってかわいい女装とはいえない。
それでも札をもらえたのはひとえに、委員会の後輩という接点があり、可愛がってもらっているからである。
ましてや相手は知らない最上級生で、しかも強者ぞろいの学級委員長委員会の頭。
おそろしいというのが二人の本音であった。

しかし、庄左ヱ門と伊助は「何だ知らないの?」の笑った。



先輩は学園一、後輩が大好きな先輩で有名だよ」
「自分より年下ならば誰でも。そう、平滝夜叉丸先輩すらも猫可愛がる先輩だから大丈夫」



伊助は庄左ヱ門に同意を求め、庄左ヱ門は即答した。
団蔵は目を丸くした。



「ええっ! あの、自慢をはじめたら止まらない自分勝手で面倒な滝夜叉丸先輩を猫可愛がるの!!?」
「うん。ちなみに、竹谷八左ヱ門先輩の頭をなでなでしていたのも見たことあるよ」
「うそぉ!?」
「本当。・・・ってことで、一緒にいく?」



今一度問われ、虎若と団蔵は、今度こそ即答した。



「行く!!」



そうして四人に増えた一行は、にこにこ笑いながら北の井戸へ向かっていた。

ふんふんと、鼻歌さえ歌いながら歩いていた団蔵だが、それに被さるように歌い声が近づいてくることに気づいた。
見渡した団蔵は、ほかの一団を見つけて「ああっ!」と声を上げた。
声につられて虎若らも、顔を向け。

そしてさらに大きな声があがった。



「ああっ!? みんなぁ!!」



歌をうたいながら歩いていたその一団は、残りの一年は組だったのである。



「庄子ちゃん、伊子ちゃん、虎子ちゃん、団子ちゃん、どうしてここに!」



乱太郎としんべヱの重なった声に、庄左ヱ門が驚きながらも逆に問いかける。



「乱子ちゃん、きり子ちゃん、しん子ちゃん、喜子ちゃん、お三ちゃん、兵子ちゃん、お金ちゃんこそどうして・・・・」



それに対して、喜三太がのんびりと答えた。



「僕としんべヱはね、食満先輩に会いに長屋に行ったんだけど、乱太郎と札を全て渡しおえちゃった善法寺先輩しかいなくてね。がっかりしたの。そうしたら、善法寺先輩が食満先輩は先輩と一緒に北の井戸の点検に行っちゃったって教えてくれたんだ。先輩もとても優しい先輩だから札をくれるだろうねって、しんべヱと話してたら乱太郎も一緒に行くことになって。北の井戸に向かっている途中で他のみんなにどんどん会ったからみんなで食満先輩と先輩のところへ行くことになったんだ」



虎若はぽかんと口を開いた。



「い、行くことになったんだって・・・・」



合格札は一人四、五枚しかもらっていないようであるから、は組全員で押しかけたら足りない可能性が高い。
そのことにいち早く気づき、駆けだしたのは優勝をねらうきり丸だった。



「こうしちゃいられない!」
「ああっ! きり子ちゃんが!!」
「みんな、きり子ちゃんに続けーっ!」



庄左ヱ門の号令に一斉に走りだす。
押し合いへし合い、女装中であることを忘れて競争し、とうとう北の井戸が見えた。

一年生の、しかもたくさんの足音に六年生が気づかないわけがなく、井戸では目的の食満留三郎とが一年は組がつっこんでくるのを目をぱちくりさせて見ていた。



「こんにちは!」
「はじめまして!」
「札ください!!」



到着と同時に口々に叫ぶ一年は組に、留三郎とは顔を見合わせた。



「お呼びのようだぞ、留」
「いや、この場合お前もだろう、



しかし弱ったな。
と、留三郎は懐から札を出した。
その手には、二つの札しかなかったのである。



「用具委員の三人しかこないと思っていたから渡した平太のをぬかして、二つしかもう持っていない」
「えええっー!!」



しんべヱと喜三太の喜びの声は、他の悲鳴に消された。
そして、必然的に全員の目はに向く。



先輩! もちろん僕にはくれますよね、学級委員長委員会なんですから!!」
「委員会の後輩じゃなくてもくれますよね!?」
「おじひをーーっ!!」



11人のきらめく瞳に凝視され、は肩を振るわせて。

そして、急に留三郎の胸ぐらをつかんだ。



「やべえっ! 今日何の日!? どんなサプライズ! かわいい!! マジかわいい!! 師匠、これは夢じゃないよな。俺はちゃんと起きてるよな!!?」
「おおおおお落ち着け、頬をつねるなら自分にしろ。俺にしても意味はない!」
「きっと今日は大吉なんだ。少しくらい伊作に幸運を吸われても大丈夫な気がする! あとで伊作の頭を撫でてやろう!!」
「だから落ち着け! 伊作を撫でてやるのはいい案だ。俺を撫でても意味はないぞー!!」



花咲いたようにふわふわ笑うを見つめ和やかな雰囲気になろうとしたときに、きり丸が覚醒した。



「いやいやいや、優勝!!」



その目にはもはや銭しか浮かんでいない。
きり丸がみんなよりも一歩前に出た。



「初めまして、札ください!」



すると、学級委員長委員会の後輩である庄左ヱ門が負け時と前にでる。



「先輩、もちろん僕の分はとってくださっていますよね!?」
お兄ちゃん、僕にもくれるよね?」



そしたら、どういうわけかしんべヱも前に出て、しかものことを『お兄ちゃん』と言ったではないか。

しんべヱの所属する用具委員会の委員長である留三郎が目を丸くした。



「お兄ちゃんって・・・・。どういう関係だ」



まさか血がつながっているわけでは。
と、本気で問いかける留三郎に、は前に出たは組たちを撫でながら返した。



「いやいや師匠。んなわけないだろ。俺は福富屋でもアルバイトしてんの。楽器の補修とか音の確認とか。ってかね、しんべヱ。学園はお兄ちゃんじゃなくて先輩って呼ぶようにって言ったろ」



六年生二人が脱線していくのを見かねて、庄左ヱ門が叫んだ。



先輩! 誰に札をくださるのか早く決めてください」



すると、はきょとんと首を傾けて、そうして笑った。



「もちろん、全員にやるよ」
「えええっ!」
「一年生全員分の札を用意してるからな」
「えええぇええ!!?」



11人の叫び声があがる。

音の振動を前もって読みとっていたは耳をふさいでいたが、留三郎は直撃を受け、ひっくり返った。
は懐に手を入れて、笑う。
その手をみんなに見えるように掲げると、そこに11枚の札があるではないか。



「学園長の突然の思いつきで一番被害を被るのは先生方だと思っていただろう! 否!! 今日の女装授業のために合格札を徹夜で制作したのは何を隠そう学級委員会委員長の上級生である俺と三郎だ!!」



ひとり3、4枚だけ?
職権乱用?
知るか知るか。
自分で作って管理をしない学園長が悪いんだ。

はそう言いながらは組のよい子たちを一人ずつ撫でて札を渡してゆく。
撫でているときのの顔のゆるみ具合はすさまじいもので、留三郎はそっと視線をはずしたのだった。



「かわいい、まじかわいい! いやあ、眼福眼福!!」



















<END>





・・・・一気に出してしまった所為では組の個性が出ていない!!
初対面だからこんなものなのですかね・・?
消化不良で終了っぽいですよね。
シリーズですから、これからきっとこの子たちも一人ずつスポットライトが当てられますよ!

ちなみに、優勝はもちろんきり丸です。