風のごとく
















外を一周してしまった。
が、箱はおろか、その目撃者も、一人もいなかった。
簡単に見つかると楽観していたわけではないが、かすりもしないとなると正直不安になる。

青い顔になった伊作を留三郎が慰めるように背中をさすった。



「伊作、大丈夫だ。きっと見つかる」
「そうかなぁ・・・・」
「ああ絶対見つかる。まだ建物の中を探していない」



は建物のほうを向いて、力強く言った。

中は三郎が捜索中だが、音沙汰はない。
建物の数と、その広さを考えると仕方のないことだ。

とにかく三郎と合流し、まだ捜索をしていない場所の情報をもらおうと建物の方に顔を向けたは、ちょうどその視線の先に砂埃があがっているのに気づいた。



「んん?」



の胡乱げな声に、つられて顔を向けた伊作と留三郎も、煙の正体を見極めようと目を細めた。



「うおおおぉおぉぉおお!! 進退疑うなかれー!!」



また、青色の服だ。
今日は2年生によく遭遇する。

はその後輩を見て、おお、と声を上げた。



「左門!!」



迷いもせず名前を呼ぶ、すばらしい後輩好きだ。
まだ豆粒ほどの姿しか見えていないというのに、まったくすばらしい、以下省略。
ここまでくるといっそ化け物じみていると若干引き気味のは組の様子など知らずに、左門と呼ばれた2年生は全速力でこちらに向かってきて。
風のように通り過ぎようとして。



「ちょい待ち」
「ぐえっっ!!」



に首根っこを捕まれて、強引に止められた。

目をしばたかせた左門は、自分を捕まえている手をつたうように顔を見上げて、元気に挨拶してきた。



先輩じゃないですか、こんにちは!」
「はいこんにちは。作兵衛が必死に探してたぞ」



が言ったことでやっと伊作と留三郎ははっとした。

左門。
どこかで聞いたと思ったら、つい先ほど聞いたばかりだ。
決断力のある方向音痴という、訳の分からない説明とともに。

左門は目をぱちくりさせていたが、もう一度が同じ言葉を繰り返すと、おお、と声を上げた。



「俺も迷子の作兵衛を探していたんです!」



伊作と留三郎は「ん?」と首を傾げた。

作兵衛の話だと、迷子になったのは左門の方だ。
だが、左門は作兵衛が迷子だという。
どういうことなのだろうか。

戸惑う二人の目の前で、はにこにこと笑って。



「そうか、そうか。ところで、かくかくしかじかな理由で箱を探しているんだが」



と、本日数回目になる質問をした。
左門はぽかんと口を開けてを見上げている。

今回も脈なしか。

肩を落としかけたそのとき、左門が「見ました!」と元気に告げた。



「見た!?」
「どこでだ!」



初めての目撃情報に伊作と留三郎が興奮状態で左門に迫る。



「三之助が持ってましたよ」



このぐらいの大きさの、黒い箱を。

と、左門は両手で形を示した。
それは探している箱と一致していた。

は左門の頭をグリグリと撫でた。



「でかした左門! で、三之助はどこに行ったか知ってるか?」
「はい。あっちです!」



左門は学園の外を指さす。
伊作と留三郎は小首を傾げた。

箱を持ってどうして外へ?

は気にした様子もなく二人に目配せして、左門に向きなおった。



「よし、お前は作兵衛と合流しろ」
「はい。きっと心細くしてるでしょうから。作兵衛はどこにいますか?」
「あっちだ」



は、作兵衛のいる方向とは逆の方を示した。

伊作と留三郎は飛び上がって驚いた。



「いやいや、それは逆・・・」
「え? 逆??」
「いんや左門。あっちあっち」



伊作が止めるが、は間違った方向を示したまま。
左門は疑いもせず「分かりました!」と頷き、



「・・・、お前親切そうにしながらなんて鬼畜な」



の奇行に言葉をなくす留三郎の前で、が教えた方向とは反対方向に走り出したではないか。



「うおお! 進退疑うことなかれ!!」
「ええええ!??」



結果的に、作兵衛のいる方向へ向かってはくれたが。
何故にいまの説明でそっちに行こうと考えたのだろうか。

目を白黒差せたは組二人は、「よしよし」と頷くに問いかけるように顔を向けた。



「な。決断力のある方向音痴だろ」
「・・・・・」
「じゃあ、三之助を探すか」



はそう言って、左門が指さした方向とは逆に歩きだした。

もう、何もつっこむまいと、は組二人はの後をついていったのだった。












<つづく>