「和尚! あいつどうにかしてくれ!」
「あいつではないだ」
障子を蹴り倒さんばかりの勢いで仏間に飛び込んできた平次に、和尚はのんびりと言い返す。
「あーもう! そのがまた脱走しようとしたんだ。今度は井戸に岩を投げ落としたすきに」
「ん? それも平次がいつか学園で習ったといっていた忍術だな」
本来ならば、学園で習ったことは門外不出なはずであるのだが、平次はどんなことでも和尚に黙っておくことが苦手であった。
「ああ。あいつ色々知りすぎてる。怪しいんだって。ホント」
「怪しいからと言って、外に出すわけにもいくまい」
「なっ。もちろん、外に追い出そうなんて考えてないっつーの! でも・・・」
平次は首を大きく横に振って、心配をにじませた声音で言う。
「なんか、は外に出たがってる。死ににいくようなものなのに」
寺の外は悪天候が続いていた。
止んだと思って外をのぞくと、すぐさま猛吹雪。
病人でなくても、外に出歩ける状態ではない。
だというのに、は隙あらば抜け出そうとする。
それで平次はここ数日、まともに睡眠をとっておらず目の下の隈は一朝一夕では消えないぐらい濃くなっていた。
「・・・それなら、放っておきなさい」
「はぁ!?」
「やりたいようにやらせてみなさい。気が済めば、無茶はするまい。もちろん、危なくないように陰ながら見守ってやるんだよ」
「でも」
言い募る平治を片手で制し、和尚はふと外に視線をやった。
「ほら、なにかやけに静かだと思わんか?」
つられて外を見た平次は、晴れた空と、今まさに塀を乗り越えたの後頭部を捉え、深々と息を吐いたのだった。
「あいつ・・・」
「追いなさい平次」
「言われなくても!」
返事をしたはずの平次の姿は、すでに和尚の目には捉えられなかった。
<つづく>