水色とおつかい









まいたけ城への道の途中。
三郎とは、三人のドクタケ忍者の襲撃にあい、仲良くひもでぐるぐる巻きに縛られた。

情けない。

三郎はがっくりとうなだれていた。
一年生でありながら密書の運び手に選ばれた今回、意気揚々と学園を出た朝とはほど遠い、最悪の気分である。

が相棒になった時点から嫌な予感はしていた。
なにせ、は二年生のトラブルメーカー三人組の一人で、三郎が初めて目にしたときなんて、山田先生にしかられて屋根から転げ落ちているところだったのだから、印象が悪いにもほどがある。

ドクタケ忍者の一人 Aが、三郎から取り上げた密書を指さす。



「この密書はどこの城に持っていくものなんだ」
「えー。言えません」
「そんな態度だと、こしょこしょしちゃうぞ!」
「ぎゃーっ。まいたけ城ですぅー」



なんと、は手をわきわきわせるドクタケ忍者Bに屈して、はいてしまったではないか。



「先輩!」



信じられない。
最悪だ。

三郎は隣のを呆然と見つめた。
はしゅんとうつむいている。


ドクタケ忍者は大喜びだ。



「首領のはっぽうさい様にお届けしなくては」



Aが言い、



「だが、密書は暗号になっていて読めないぞ。もっと脅してはかせよう」



と、Bが言うのに対して、Cは、




「いや、こんなちっさな忍たまだ。そこまでは知らされてないんじゃないか?」



と、反論したので、三人のドクタケ忍者は密書を囲んで、あーでもない、こーでもないと討論だ。

ドクタケ忍者もへっぽこなもので、三郎とに背を向けて、話し込んでいる。
だから、三郎は容赦なくを睨みつけることがきた。



「なに考えているんですか先輩」
「ん?」
「大事な密書を取られちゃったじゃないですか」



は三郎を見つめて、きょとんとした表情を浮かべた。



「計画通りじゃん」
「ーーーーえ?」



するりと、三郎を縛っていた縄が解かれた。
ハッとしたときには、は縄を放り出し、三郎の手を掴んでまさに走り出そうとしていた。



「行くぞ!」



は、これ見よがしに叫び、学園の方角へ走り出した。



「先輩、手を離してください! 一人で走れます!!」



繋いだままの手を振り払おうと大きく振るが、は手を離そうとはしなかった。

せわしなく周囲を伺いながら。
一点で目を留めた。



「鉢屋、あの草むらにこけるぞ」
「は!?」


言うが否や、の体は宙を舞っていた。
手を捕まれたままだから、必然的に三郎も頭から草むらに倒れ込んでしまった。



(逃亡すらままならないなんて!)



心の中で嘆いた三郎だったが、は違っていた。
転んだ先の竹でできた管をひっつかみ、それに向かって叫んだ。

すると、



「くぅおらぁ お前たち!! 忍たまなんぞ追いかけても何にもならんぞ!!!」



ぞっとするような男の怒鳴り声が辺りに響いた。



「はいっ。八方斎様!!」



背後のドクタケ忍者の言葉に、血の気が引いた三郎だったがしかし、

の顔をガン見していたため、ドクタケ忍者が『八方斎』だと認めた声と、の口の動きが寸分違わず同じであることにすぐに気づくことができた。



「そんな忍たまは放っておいて、早く密書を持ってこんかい!」
「はいーっ! わかりました!!」



慌てた様子で、ドクタケ忍者の足音が遠のく。
そして、あたりが静かになった頃に、は管から口をはなして、大きく息を吐いた。



「ふー。大成功だな」
「ーーー先輩。もしかして私たちって、囮だったんですか?」
「おっと、本当に聞かされてなかったって顔だな」
「・・・・・」


無言が、肯定であることを示していた。
愕然とした様子の鉢屋に、慌てたは両手をぶんぶん振った。



「いや、別に先生方は鉢屋が演技できないと思って話さなかった訳じゃなくて、本当にただ言う時間がなかっただけだぞ」
「そんなごまかしのフォローされても嬉しくありません」
「ごまかしなもんか」



何故か、はすくりと立ち上がると胸を張った。



「俺たちが囮役になったのは、俺が仙蔵にじゃんけんで負けたからで、そうじゃなかったら正真正銘俺たちが運び役だったんだから」
「じゃ・・・じゃんけん?」
「そう。じゃんけん。しかも、学園を出るちょっと前」



なんとも軽い配役の仕方だ。

三郎は拍子抜けして、肩を落とした。
とたん。



「・・・さて、帰りましょうか」
「ひうっ!?」



真後ろから声をかけられて、三郎は文字通り飛び上がって後ろを降りむいた。
そこには、三郎の所属するろ組の斜堂先生が。
はなに食わぬ顔で、「じゃあ、俺は松千代先生から借りてきた管を回収してきまーす」と、木を上っていって見えなくなった。



くん、鉢屋くん。おつかれさまでした」



人魂とともに現れた斜堂先生は、目を白黒差せる三郎に、苦笑を見せた。



「今回のお使いは、二年生の小テストもかねていましたので、影から一部始終見ていたのですよ」
「そうだったんですか。・・ということは、あの八方斎の声の細工は先生方が用意していたものですか?」



三郎の問いかけに、斜堂先生は「いえいえ」と、手を振った。



くん本人の細工ですよ。彼は、一度聞いた音や声をすべて覚えているだけではなく、完璧にコピーできるという才能を持っているのです」
「えっ。あの先輩がですか!?」
「彼は二年生で一位二位を争うほどの実力を持っていますよ。鉢屋くんは少々人を侮るところがありますが、それは忍者の三病のひとつです。なおしていきましょうね」



を見下しているのが、斜堂先生にはバレバレであったようだ。
指摘されて、三郎はハッと俯いた。



くんと知り合えたよい機会です。手始めに、くんがどういう人物か、理解するところからはじめてはいかがでしょう?」
「はいっ。回収を終えましたー。二人で楽しそうに、何を話しているんですか?」
「他愛のないことですよ。さて、忍術学園に帰りましょう」



が木の上から飛び降りてきたことにより、話題は途切れた。

しかしこの後、三郎は生真面目に斜堂先生のアドバイスに従い、の周りをうろつき始めることとなる。









<おわり>