二人はまるで、百年来の宿敵同士のような睨み合いをし。
力押しで勝負がつかないと感じたのか、互いに武器を投げ捨てて、掴み合いの喧嘩を始めたではないか。
は思わぬ状況にポカンと口を開いたまま、地面に座り込んだ。
二人の戦いは、忍者の戦い方ではなく、ただの喧嘩に見えたのだ。
が文次郎に初めて会ったのは屋根の上だった。
一人で鍛錬に励む文次郎を尊敬したのが一番のきっかけで、それ以来は夜間トレーニングをするようになった。
落ち着きがあり、努力家の文次郎には畏敬の念を抱いていたのだが・・・。
畏敬の念がガラガラと崩れていく音を、は聞いた。
ギャースカ言い合っていて、と小平太との喧嘩より子供っぽい。
「留三郎がいたとは。長い足止めになりそうだ」
はぁ。と、先ほど焙烙火矢を投げた少年がため息をついた。
と同じく地面に座っており、その手に武器はない。
戦いに参加する様子はないようだ。
まじまじと少年の顔を見る機会を得たは、その少年の顔立ちがとても整っていることに気付いた。
艶めいている真っ直ぐな黒髪は、女の子も羨むだろうほどのもの。
が見つめていることを、少年は足止めになる理由を問うものだと思ったようだ。
少年は二人を眺め、言った。
「あの二人は犬猿の仲だ。どっちから先に牙を向き始めたのか私は知らないが。ともかく、一度こうなったら簡単には止められないぞ」
「えっ!?」
は慌てて立ち上がった。
そんなことで時間をかけるなんてとんでもない。
は小平太と勝負をしているのだ。
遅く着いた方が、だんごを二人前おごると言う罰ゲーム付きのものを。
しかし、実際は二人前ではすまない。
町に下りるとなると、長次も誘って3人で行くことが当たり前であり。
つまり、小平太と長次の二人分、四人前に加え、自分の分を買わねばならず。
実際は六人前と言う恐ろしい金額を出すことになるのだ。
・・・もっと言うと、小平太もも二人前では満足できないため、さらに追加される恐れもある。
バイトで生活費や入学金を払っているには死活問題であった。
「冗談じゃない。留三郎!」
は留三郎に近付こうとしたが、もはや大混乱に陥った喧嘩は二人の姿すら土煙の中。
少し迷って、はその中に突っ込んだ。
「留三郎!!」
左から突然飛んできたパンチを右に受け流し、は声を上げたが返事はない。
「こんな勝負したって意味ないよ」
鳩尾めがけてやってきた膝を払いのける。
穏便に済ませようと思っていただったが、頬すれすれに通り過ぎたくないに、堪忍袋の緒が切れた。
は振り下ろされた何某かの腕を掴むと、大きく振りかぶり、宙に投げた。
「俺の話を聞けぇぃ!!」
「どわーっ!」
投げ飛ばされたのは文次郎だった。
文次郎の体は観戦していた少年の上を抜け、頭から地面に落ちた。
クリッとした小柄な見た目に合わぬ馬鹿力を出したを留三郎は口をあんぐり開けて見つめた。
「俺は一位になりたいんだ!」
は留三郎を振り返りつかつかと寄ると、むんずと掴んだ。
「行くぞ!」
くんと手を引っ張られ、留三郎は飛ぶように木の枝に乗っていた。
留三郎は驚いて下を見た。
たった何歩で木の上まで飛んでいた。
またがポンと一つ飛び。
次の木に留三郎も着地した。
その時に留三郎は気付いた。
はジャンプの際に留三郎を片手で持ち上げながら飛んでいたのだ。
「・・・、お前」
「ん?」
「力持ちだな」
留三郎の中では他の、色々な思いが渦巻いていたのだが、それしか口から出てこなかった。
は留三郎を見もせず、「別に」と返し、飛び続ける。
「怒ったか?」
「うん。怒った」
留三郎が問えば、あっさりと分かりやすく返事はきた。
は木から高い崖の上に着地してやっと、留三郎を見た。
「小平太に勝てたら許してやる。負けてたら、留三郎もおごるのを手伝えよ」
留三郎は目を瞬かせて、にっと笑って頷いたのだった。
<END>
レクリエーションの結果は、と留三郎は5位。
小平太は伊作とペアだったため、不運に巻き込まれて最下位でしたー。