新任の初任務は・・・













「もう鼻持ちならねぇ!」
「それはこっちの台詞だ!!」



三年ろ組の教科担任 大木雅之助と二年は組の実技担任野村雄三の喧嘩は毎度のことであった。
甲賀と伊賀が対立関係にあることは、忍者なら、忍たまでも知っている。
だから、今回もそんな感じの他愛のないいざこざだろう。
誰もがそう思っていた。

しかし。



「お前が消えないなら俺が消える!!」



大木はそう言うと、本当に学園から去ってしまったのである。
慌てた教師陣は学園長を筆頭に大木の説得をしたのだが、いい返事は貰えず。



「ラッキョウが育ったら学園に持ってきてやるよ」



と、ラッキョウ嫌いな野村に嫌がらせの宣言をしたのみだった。

いきなり先生がいなくなり、三年ろ組の授業は大いに荒れた。
元から、トラブルメーカーな三人組がいる学級なのだから、その混乱振りはひとしおであった。



「早く新しい先生を見つけなければ」
「いい忍者はいないものだろうか・・・」



うーむと悩む中。



「私の知り合いに、まだ若いですがとても優秀な忍者がいますよ」



と、提案したのが山田伝蔵であり、やってきたのが22歳の土井半助であった。










「いきなりの申し出を快く承諾してくれて助かった」
「伝蔵さん・・いえ、山田先生にはご恩がありますし、丁度仕事がなくなってしまったところだったので、助かったのは私のほうですよ」



土井先生は山田先生の案内で学園の中を回っているところだった。
すでに何人もの忍たまに話しかけられて、受け入れられ、教師になることの不安は薄れていた。



「土井先生には三年ろ組の教科担任以外にも火薬委員の顧問をしてほしい。得意分野だったでしょう?」
「ええ。・・でも、新任の教師がいきなり委員の顧問をしても大丈夫でしょうか」
「心配いらんよ」



山田は向かっている先を指差した。



「あれが火薬を保管している倉庫だ。六年の委員長を筆頭に四年生1人。三年生1人。一年生2人の5人の生徒の顧問になる。ああ、そうだ。三年は土井先生の担任になる ろ組の生徒でな、学年では一位ニ位を争う優等生・・・・」



そこまで言った時であった。



「三郎は学園長に知らせろ! 一年坊主どもは待機!!」



緊迫した声が倉庫の中から響いてきた。
青色の制服の少年が風のように倉庫から飛び出す。
それに遅れて、三人の生徒が倉庫から出てきた。



「何かあったようだな」



山田は小さく呟き、生徒のほうへ走った。
慌ててその後ろを追った土井は、三人の生徒のうち一人は三年生である黄緑色の服を着ていることに気がついた。

先ほど山田が言っていた“ろ組の優秀な生徒”が彼なのだろう。
それにしても長い髪だ。
行動に支障はきたさないのだろうか。

少年は山田が声をかけるより早く存在に気付いていたようだ。
まるでやってくることが分かっていたかのように自然に山田と土井を振り返った。
土井はハッとした。

少年の目が、水色だったのだ。
それは、冬の清流のような澄んだ水色をしていた。



「先生、一足遅かったですよ」
「どうした」



山田が問うと、少年はちらりと土井に目線をやった。
そこに、警戒している色があった。
味方かどうか判断しかねているようだ。

山田はそれに気づくと、ぽんと土井の肩を叩いた。



「新しい三年ろ組の教科担任、土井半助だ。火薬委員の顧問も担当することになった。身元は私が保証する」
「えっ。新しい先生、もう決まったんですか!」



少年は花咲いたように笑みを浮かべ、土井にお辞儀した。



「三年ろ組、火薬委員のです。土井先生、早速事件ですよ」
「事件とは?」



土井が問うと、少年―――はスッと表情を引き締めた。



「倉庫の火薬の3割が盗まれました」
「な、何だと!!?」
「ついさっきです。倉庫にいたのはこの子達で・・・。俺が異変に気付いて倉庫に向かった時には既に、塀を乗り越えて去っていくところでしたけれど、あの格好はドクタケ忍者ですね」



サングラスに渋柿色の忍装束でしたから。

はそう言うと、背後の塀を見上げた。
山田もつられて塀を見る。



「何人だった」
「盗みに入った一人に見張りの一人。たった二人ですし、いまから追います」



はドクタケ忍者を捕まえる気でいた。
山田は塀を飛び越えようとしたの襟首を慌てて掴んだ。



「一人で行く気だな。ドクタケ忍者は取り返しに来ることぐらい予測しているだろう。危険だぞ」
「けれど、先輩の留守を預かっていたのに、この失態ですよ」



名誉挽回のために、ここは何が何でも取り返します!

の目がそう告げていた。
山田は大きくため息をついた後、土井を見つめた。



「仕方がない。土井先生、をつれて火薬を取り戻しに行ってくださいませんか」
「えっ。彼を連れて行っていいんですか?」



土井は驚いてを見下ろした。
まだまだ、忍者の体が完成していない子どもだ。

しかし、山田は頷く。



「連れて行ったほうが、追跡は楽だろう。
「はい」
「犯人は分かるな?」



は大きく頷いた。



「足音、呼吸の特徴、声。しっかりと聞きました! 変装をしていても見抜けます」
「よし、追跡は任せた。私はほかに被害がないか調べる」
「はい! 行きましょう土井先生」



水色の瞳が土井を見上げた。

就任一日目にとんだことになった。

土井はそう思いながら、「行こうか」と塀の上へ一足飛びした。
背の低いが一人で塀の上に昇れるものだろうかと危惧した土井だが。
ただの杞憂に過ぎず、は一呼吸の間を置いて、土井の隣に飛び乗った。

様になっている。
身のこなしがいい。

山田が追跡を許した理由が分かった土井は、不安が消えたのを感じた。



「行くぞ」



独り言のように呟けば、すぐにが「はい!」と応じた。

それがとても心地よかった。














END



そうして土井先生は、が優等生であり問題児でもあることを知るのでした。


ちなみに、三郎がいたのはたまたま主人公に会いに来ていたため。
委員会は別です。