こんにちは。見逃して














長期休み。
それはにとって絶好のアルバイトどきである。

朝は新聞配達。
昼食時は合戦場で弁当配り。
昼から夕方にかけては福富屋で異国へ輸出する楽器類の点検補修を手がけ。
夜は色町の用心棒家業に精を出す日々である。

もっとも、色町の仕事は今年から、もとい、3日前から始めたことだ。
去年まではうどん屋で働いていたのだが、いかんせん老人の店主だったため、足腰が立たなくなり閉めてしまったのである。

お金のためならば仕事は最大限譲歩するは、詰まりに詰まって、そこで落ち着いてしまったのである。
もちろん、夜のバイトは学園に秘密で行っている。
客としてではないにしろ13歳の忍たまがそんなところに、顔を出していいわけがない。(・・・戦場もしかりであるが、そこは言っても聞かないに学園長が折れた。)

年が少しでも多く見られるような化粧をし、それらしい服装で望んでいるため、驚いたことに雇い主ものことを18歳だと思っている。
だいたい、色町で厄介ごとを引き起こす輩は見た目ばかりの三下であるため、が危ない目に遭うことは一度たりともなかった。

今日までは。



「おうおう。この花房牧之介に楯突こうなんざ、百年早いんだよ!」



嫌がる『花』を追い回す剣豪がいると呼ばれ、はその男の前に立ったのだが。
その男の体格はともかく、持っている刀がそんじょそこらの剣豪には到底扱えない恐ろしいほどの技物であったのだ。
刀に詳しくないが一目で分かるほどだから、よほどのもの。
それを持っているとなると、この男も相当の腕だと言うことだ。

これはやばいな。

は内心舌打ちした。
接近戦はしたくない。
相手の間合いが一見だけで分かるほどの実力が自分にないことは承知しているし、忍たまであることを隠しているから素性がばれる武器を使うわけにはいかないからだ。
しかし、そんな戦い方で勝てる相手であろうか。

花房牧之介はにやにやと笑いながら、居合いの型をみせる。



「俺様の一撃、受けてみよー!」



ええい、ままよ!

は刀を構えた姿勢で突進してくる男を迎え打つべく懐に手を突っ込んだ。

が。
牧之介がの前にたどり着く前に、柿色の影が二人の間に飛び込んできたではないか。



「見つけたぞ花房牧之介!」



よりも高い背中。
茶色かかっている髪は高い位置で一つに結われている。
その姿は、が知っているものであった。

うそだろう・・・。
まさかこんなところで会うなんて。

が唖然としてる間に、牧之助と乱入者の対決は終わってしまった。

二人の言い合いを聞くに、どうやら牧之介の刀はとある殿様がお忍びに城下に出たときに盗まれたものであって、牧之介が盗みを働いた(本人曰く、拾った)張本人らしい。
それで、調査を依頼されたのが乱入者、人気フリー忍者、山田利吉というわけであったようだ。

ピンチなことに。
この山田利吉という男、忍術学園の教師山田伝蔵の息子である。
個人的に知り合っている間柄ではないのだが、かといって初対面というほど知らない間柄ではない。
印象を変えているとはいえ、青い目を見られたら一発でバレてしまうに違いない。



「おう、兄ちゃんすごいなぁ」
「どこかの城の忍びかえ?」



幸いなことに綺麗に場を納めた利吉は、観客たちに囲まれて身動きがとれない状況にある。
逃げるのなら今のうちだ。

はできるだけ気配をたって、ソロリソロリと後退した。
そして、人混みの中の利吉の頭すら見えなくなって、は回れ右して駆け出すために足に力を入れた。

しかし。
そこは引っ張りだこなエリートフリー忍者、利吉。



「君、待ってくれ」



いつのまに、どうやって人混みの中を抜けてきたのやら。
利吉は瞬時にの前に回り込み、道をふさいでしまっていた。



「君のおかげで牧之介から刀を取り返すことができた。お礼をしたいがその前に・・・」



利吉は、の肩に手をおいた。
ぎゅっと、力を入れて。
さらに、にやりと笑みを浮かべて。



「聞きたいことがあるんだが、どうして此処にいるんだい? く」
「わーっ! お役に立ててよかった。こんなところで話も何でしょうし、向こうに行きましょう!!」




バレている。
完全に身元がバレている。

利吉を引っ張り、人気のないところまでとにかく疾走した。

そこそこ走ったぐらいでは息は切れない。
とにかく人の気配がない場所までついてから、は利吉に深く頭を下げた。



「こんにちは。見逃してください」
「こんにちは。まさか忍術学園の生徒さんが遊郭でバイトしていたなんて、知らなかったよ」



利吉が意地悪く笑うので、はかくかくしかじかと、バイトに至るまでの経緯を伝えた。



「この高収入のバイトを逃したら授業料が払えなくなるんです。私生活もかつかつなんです」



べつに騒動を起こしているわけでもない。
遊女に手を出してもいない。
出す気もない。
だからどうかどうか!

平謝り続けると、利吉は困ったような表情を浮かべて、やはり「困ったなぁ」と呟いた。



「私としても、プライベートまでどうこう言うつもりはないし、ちょこっと注意するぐらいで放って置こうと思ったのだけれども」
ーーっ!」
「!!!?」



突然、暗闇から山田伝蔵が現れた。
阿修羅の形相で。



「・・・運の悪いことに、ここで私は父上と合流する手はずだったんだよね」



なんて利吉の声が伝蔵に追われているに届くわけもなく。

結局全ては学園長の耳へ伝わり、バイトは強制終了。
学園長の斡旋による、同じ値段で倍の時間がかかるバイトに変更を余儀なくされたのだった。



「俺、利吉さんのこと、嫌いになりそうです」
「おやおや、それは困ったね」
















END