宝は全部こっちにちょうだい
「四方六方八方ーしゅーりけーん」
秋休みも残り一日となる。
短期バイトに一区切りをつけて学園に戻る道すがら、はばったりと小平太に遭遇し、二人で学園へと続く道を歩いていた。
雨あがりの獣道はほかに人気はなく、だから二人は大声で歌っていたのだが。
ふいにが歩みを止めた。
「どうした、?」
歌っていた勢いの声で話しかけた小平太の口を、が慌てて押さえる。
「しーっ。なんかね、聞き覚えのある声が聞こえてくるんだ」
「んんんーー?」
首を傾げる小平太。
は辺りを見渡し、とある一点で目を止めた。
「あっちだ」
そう言って小平太から手を放し、獣道からそれていく。
そり道をしたら間違いなく遅刻する時間であったにも関わらずだ。
が、の頭からそんなことはぽーんと飛んでっており。
「なんか面白そうだ!」
小平太の頭からも飛んでいた。
そろりそろりと草むらを歩くこと40歩ほどかは歩みをやめて、後ろをついてきていた小平太を手招きした。
「やっぱりだ」
は茂みから少しだけ顔を出し、笑みを浮かべる。
「ドクタケ忍者だ」
茂みの向こうを覗きこんだ小平太は渋柿色の忍服を見た。
忍服の3人は皆おそろいのサングラスをしている。
確かにドクタケ忍者隊だ。
小平太は小首を傾げた。
「でも、どうしてドクタケ忍者の声だって分かったんだ? 知り合いでもいるのか?」
「んー、知り合いっちゃあ知り合いだな」
は半目でうすら笑った。
「あの一番小柄でぽっちゃりした忍者。あいつ秋休みのちょっと前に学園に硝石を盗むために忍び込んできやがったヤツなんだ。しかも俺が先輩に留守番を任されていた時にな。もちろん、盗まれた硝石は土井先生と一緒に取り返した」
「へーー」
「顔を突き合わせてコソコソ話しているところを見るに、またよからぬことを企んでいるんじゃないのか?」
は耳の後ろに手を添えた。
聴覚に集中するためだ。
邪魔をすると親友といえど怒られるから小平太はその間物音一つ立てない。
しばらくして、が呟く。
「ほうほう・・・・」
「なになに? なんて言ってる?」
「あいつら、この山を縄張りにしている山賊からお宝をとってきた帰りらしいぞ」
「お宝!?」
「しーーっ」
は声を上げた小平太を横目で諌める。
どうやら重要な話を盗み聞きしているようだ。
そして、理解したとばかりに大きく頷いた。
「・・・どうやらお宝はドクタケの殿様に献上するものらしい。綺麗にラッピングをして渡したいんだがどうやってラッピングするのか分からないから会議中ってところだ。ちなみに、お宝はこの先にある滝の傍に放置したままだってさ」
「おお!」
それはますます気になる。
山賊から、というのが気にかかるところだが殿に献上するものなのだから貴重な宝だろう。
小平太はにやりと笑った。
「それ、私たちでもらっちゃおう!」
「はあっ!?」
「しーっ」
小平太がさっきのよろしく大声をいさめ、言った。
「だってこの間あいつらがこっちのを取ろうとしたんだろう? おあいこじゃないか」
「・・・まあ、それもそうか。所詮相手はドクタケだしな」
ストッパーがいないとこの惨状である。
二人は自分達の考えを改めることなく、頷きあったのだった。
「やろう!!」
「うん、やろう!!」
滝は思ったよりも近くにあった。
ゴツゴツした大岩ばかりの河原に、ポツネンと分かりやすく『それ』はあった。
「さすがドクタケ。盗ってくれと言わんばかりだ」
「隠す気ないだろうこれは」
と小平太はまず相手の頭を心配した。
それもそのはず。
岩だらけの場所に茶色い麻の大袋だ。
浮きすぎである。
山賊が取り返しに繰るかも、なんてことも思ってないのだろう。
二人には好都合であったが。
は大袋に近付いた。
続いて小平太が大袋の周りを一周する。
「確かにこれは大きいな」
「結び目がきついってことは、開けたら結びなおすのが大変な物なのかな」
「ドクタケがいつ戻ってくるか分からないんだから中身を調べるのはどっちにしても後だ。とりあえず、ここから運ぼう」
「そうだな」
「いっせーの!」
二人で持ち上げると、意外に重かった。
しかも形が複雑で持ちにくい。
「よし、学園にいこう!」
と、小平太が言ったのが先立ったか、後だったか。
「ど、泥棒!!」
河を挟んだ向こう側に先ほどのドクタケが現れた。
「俺達は泣く子も黙るドクタケ忍者だ! 大人しくそれを渡すんだ!!」
「麓の子か? 人のものを勝手にとっちゃいけないんだぞ」
「・・・ん? どこかで見たことあるような・・・・・・」
三人三様の反応に、はヘンと小ばかにしたような笑みを浮かべた。
「泥棒なんて人聞きが悪い。落ちてたものを拾っただけじゃないか」
「それは俺たちの・・・・」
ドクタケの言葉を遮り、小平太が走り出した。
「それ、いけいけどんどーーん!」
「ま、待てーーっ!」
ドクタケは川向こうだったのが災いして、すぐには追ってこれない。
その間にと小平太は大きく距離を稼いだ。
さらに、ドクタケはあらかじめ仕掛けておいた落とし穴に見事はまってくれたらしい。
ドスン。ギャー!!
という叫び声をBGMに二人は山を降りきった。
「ざまあみろー!」
馬鹿にしても声すら届くことなく。
かくして二人は風十分遅刻したものの、お宝を抱えて忍術学園に登校したのであった。
しかし。
「馬鹿者おおぉぉぉおおお!! ドクタケに喧嘩売ってどうする!!!」
貰ったのはゲンコツであった。
「まさかうちの生徒が盗みをはたくとは!」
鬼の形相の山田伝蔵。
その隣にはなかなか登校しない二人を案じて相談にきていた中在家長次の姿もある。
たんこぶをこしらえただが、悪びれた様子もなく言う。
「違うよ先生。山賊からドクタケが盗んだものを、俺たちが拾ったの」
「けっきょく一緒だ!!」
ああもう、と伝蔵は頭を抱えた。
見上げた先に大きな布袋。
小平太はお叱りも何のその、そわそわ落ち着かない。
理由は至極単純。
「先生先生。開けていい!?」
戦利品が気になっているのである。
呆れ顔をしながらも、伝蔵も中身は気にしていた。
なにせ殿に渡そうとしていた代物である。
もしかしたら戦に使う危険物かもしれない。
そうであったら悪戯っ子からちょっかいを出してきた子に格上げするところである。
「確かに中身を確かめないものにはどうしようもないな。よし、開けてみなさい」
「待ってました!」
と小平太は飛び上がるように立ち、きつく結ばれていた袋を解いた。
「なにかな・・あ・・・・・・・」
小平太の声は尻すぼみ。
は畳に屈服し。
伝蔵は激しくこけた。
「う、・・・・・・・馬ぁ!?」
ヒノキで作られた本物の馬そっくりに彫られた、小柄な木馬。
馬に足はなく、中央には穴が開いている。
そう、お馬さんごっこのおもちゃだ。
ドクタケの殿が馬に乗ることができず、どこに行くにも馬のおもちゃで「ぱからぱから」と自分で言いながら歩くというのは聞いたことがある4人である。
かろうじで長次が呟く。
「元あったところに捨ててきなさい」
と小平太が素直に従ったのは言うまでもないことである。
<END>
久しぶりの更新なのに章もなく、ぐだぐだな話。