いや、それって三郎がもうちょこっと本気を出して悪戯の時間を割いて委員会活動をしていたのなら減らせた苦労ではないのだろうか・・?
などと言ったところで意味がないことくらい勘右衛門には分かっていた。
なにせ、不真面目な三郎が委員会では・・・もとい、の前では比較的いい子だからであり。
無類の後輩好きなが後輩である三郎に対して不満を言うはずがないからである。
「先輩、なんというか・・・お疲れ様です」
「いやいや、勘こそ、今まで辛く寂しかったろう。これからは違うから安心しろ」
は穏やかに微笑み、勘右衛門の肩を叩いた。
「昔を思い出す暇さえないだろうから」
なにやら不吉なことを言い、はすくりと立ち上がった。
「よし、増えたのが上級生であるおかげで、これまでやりたくてもできなかったことができる」
「はい!」
「やりましょう先輩!」
切り替えが早いのは美徳だろう。
が、慣れていない勘右衛門はついていけず、慌ててを見上げた。
「やりたくてもできなかったことって、なんですか?」
三郎に向いていた目を勘右衛門にやり、は言った。
「予算づくりための物売りだ」
「も、物売り?」
そんなことも学級委員会がしているのか。という目を三郎に向けると、彼は真剣な顔で頷いた。
「今年から予算というものを他の委員会同様立てることになった所為で、学級委員長委員会はきつきつ節約中だ」
が懐から裏紙と炭の棒を取り出し、何かを書きながら言う。
「せっかくの作戦も文次郎に見破られ、ばっさりと削除されちまったからな。ちくしょう、いつか寝首をかいてやる」
「だというのに学園長は好き勝手にお金を使うからな」
「学園内のいらないものを売ってやりくりするしかないんだ。だいたいは小松田さんが間違って購入してしまったいらない物だから支障はない。問題は、量が半端ないことと、重たいものがおおいことだったから、勘が来てくれて本当に助かったんだ」
はその裏紙を彦四郎に渡した。
「彦四郎と庄左ヱ門は用具倉庫に行くんだ。売るものリストを記しているから吉野先生か留三郎に助けてもらって正門に集めておいてくれ」
「はい!」
一年生2人が部屋から出てぱたぱた駆けて行く。
「そして俺達は裏山だ」
「裏山ですか。そんな場所にどんな売るものが?」
「岩」
「岩ぁ!!?」
勘右衛門はが冗談を言っているかと注意深く顔を見つめたが、残念ながら本当のようだ。
「小松田さんの今年一番の失敗だ」
こんなやり取りがされたとか。
『学園まで届けて欲しいものがあるんです』
『何でも届けるぜ、言ってみな!』
『はい、新鮮な“岩魚”です!』
『新鮮な“岩”だな』
『多ければなおさらいいです』
『大きい方がいいんだな』
小さな違いで大きな間違いである。
「しかもそれを裏山まで飛ばしちまった後輩がいてなー。草木が茂っていて近くまで荷車を持っていけない」
「力持ちの先輩といえど、私と二人だけでは持ち上げるだけで精一杯だったのさ。勘と3人とでなら大丈夫だろう」
用具委員会ならともかく学級委員会が重労働をする委員会だと誰が予想できたろうか。
なんともアグレッシブである。
は肩を回すと、「よし」と声を上げた。
「ウジ湧け学園長! 裏山に行くぞ!」
「はい!!」
「はぃ・・・って、なんですその掛け声!!!?」
意気揚々としていると三郎には勘右衛門の突っ込みは相手にされず。
勘右衛門の記念すべき初の委員会活動はそんなはじまりであった。
後に勘右衛門は言う。
「人間は順応する生き物だよ」
と。
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