あとの会話
「俺さ」
いつものように他愛のないことで衝突し合い、そして鎮火した立花仙蔵とは空を見上げていた。
力尽きて地面に倒れこんでいるだけだが。
唐突に口を開いた。
「時々考えるんだ」
「何をだ」
嫌いだ嫌いだと思いつつ、仙蔵は話を促してしまう。
にはそうさせるヘンな魅力がある。
は一呼吸の間の後、言った。
「俺が死んだ後のこの世界のこと」
まるで今日の晩御飯の献立のことを話題にしているような軽い口調であった。
どんな表情でそう言うのか、仙蔵は投げ飛ばされた時に痛めたらしい首を無理やり動かしを見た。
は空を見上げたまま。
これといっておかしな表情はしていない。
笑っても怒っても泣いてもいない。
「お前が死んだ後のことなど、知ったことか」
興味がうせた仙蔵は、投げやりに吐き捨てた。
すると、「そうだな」とはケラケラ笑う。
こんな意味不明なところが、仙蔵がを苦手とする所以である。
どうせには重苦しい言葉を吐いているつもりなどないのだ。
しかし、それを呟ける相手が仙蔵だけであることに気づいているからこそ、仙蔵に言うのだ。
(小平太や長次や伊作に言ったら泣かれることは必須だろうし、留三郎や文次郎に言ったら正座で3時間はこってり叱られるだろう)
仙蔵は指先に意識を向けた。
痺れていた腕が動くようになってきた。
ためしに膝を立ててみようと力を入れると、できた。
上半身を起こし、仙蔵は首を左右に動かした。
よし、完璧だ。
自慢の髪の毛以外は。
学園に戻ったらいの一番に風呂に入ろう。
は立ち上がった仙蔵を目だけで追う。
体の負傷はさほどないが、まだ呼吸が整わないからだろう。
仙蔵は一瞥し、ため息を一つ。
大嫌いなの腕を引っ張りあげた。
肩を貸し、無理やり立たせる。
「一つ言える」
「へ?」
学園へと足を進めながら、近付いてくる数人の気配に仙蔵は顔をしかめた。
「泣くやつはたくさんいるだろう」
は目をぱちくりさせて。
楽しそうに。嬉しそうに。悲しそうに微笑った。
<END>
仙ちゃん相手だと殺伐とした話題もそよかぜに変わってくれます。
やさしいから。