地面に倒れ込んだのはちゃんだった。



「なんでだーっ! やっぱり西か、西に行く運命なのか!?」
「おいおい、動揺しすぎで地声に戻ってるぞちゃん」



留三郎が声をかけるもちゃんは地面を殴りつけるばかりでまるっきり無視である。



「くそう! ウジわけ学園長! ウジわけーっ!!」



あまりの形相に文次郎は一歩引いた。



「今まで一番男らしかった奴がここまで拒絶する西のだんご屋とは一体・・・・」
「その問いには私がお答えしましょう」



とつぜん人影が地面におりた。
見上げると、塀の上に紺色の制服の少年が立っている。
すかさず勘右衛門が指さす。




「その自他共に認める暑苦しいもっさり髪は、不破雷蔵・・・に変装中の鉢屋三郎だな!」
「正解。ところで勘は何処のだんご屋になった?」
「北って書いてあるぞ」



勘右衛門が棒を振ると、今まで何の反応をも示さなかったちゃんがいきなり顔を上げた。



「なんだと!?」
「・・・・・先輩・・・眼が、血走ってません・・・?」



そのようすをみて、三郎がため息をついた。



「勘が引いたのが当たりだからだ。山の麓で老夫婦がほそぼそとやってる、知る人ぞ知る名店。ピークってのもかわいいもんでずいぶん楽に調査できる」



とたん。
文次郎と留三郎の眼も勘右衛門に向いた。
居心地に悪さに勘右衛門は身を縮こませたのだった。


「しかし鉢屋。どうして調査の前からそういう実態を知っているんだ。食べに行ったことがあるのか?」



留三郎が問うと、三郎は塀の上から飛び降り、勘右衛門の隣に並んだ。
そして勘右衛門の肩を慰めるように叩くと、言った。



「もちろん、先輩と二人で事前調査で行ったからです」



文次郎は顔をしかめた。



「なら俺たちがわざわざ女装して調べる必要ないんじゃないか?」
「なに言っているんですか先輩。ちょこっと店を張り込んで経費でだんごを一つだけ食べたぐらいでちゃんとした調査になるわけないじゃないですか」
「ちょっと待て! 今、聞き捨てならない言葉があったぞ!?」
「やかましい! 話が前に進まないじゃないか! 鉢屋、どうしてちゃんはあんなに打ちひしがれてんだ?」



文次郎を押し退けて留三郎が問えば、三郎は涙を拭うふりをした。



「話せば長くなるので要点だけズバッと言います。西は元々学園長から直々に先輩が行くよう指名されていました」
「は? なら何でくじを・・・」
「行きたくないからに決まってるでしょう。西は面倒なだんご屋だったの!」



ちゃんが立ち直った。
腹をくくったのか声もきっちり女声にしている。
ちゃんは着物についた土を払い、ぴしっと立った。



「西は今一番波に乗ってるだんご屋。大半は女性客。めあてはだんごにあらず、若き二枚目店長よ」



女の子たちは目的(二枚目店長)のためならばどんな手段(団子を食べて太ること)でも辞さない覚悟らしい。



「女の子に目の敵にされる意味でも調査し辛いのよ。そのうえ・・・・」



ちゃんが地面に視線を落とした。
死んだ魚のような目だった。

中々見られない本気の傷心状態であるにそれ以上追求できるわけもなく。
留三郎は三郎に視線をやった。
三郎は深いため息をついて答えた。



「たらしを通り越して節操なしっぽいんですよその店長」



曰く。
事前調査はバイトを申し込む目的もあったので二人とも女装していたらしい。
(三郎の場合は変装とも言う)



「ふつう、バイトお申し込みにきた初対面の女の子を、家庭にお金を少しでも増やしてあげたくて勇気を振り絞って町に出てきましたって設定の女の子が来たとしたら、それなりの安心できる対応しますよね?」



仮に恋心ができたとしても。

それはそうだろう。と、頷いた三人であったが、三郎は首を横に振った。



「思い切りアタックしてきました。白い歯を見せながら

 君、とてもかわいいね。すごく好みだよ。
 これからよろしく頼むよ。
 何時までいてくれる?え、四時まで?
 残念だなぁ。住み込みでもいいのに。

 以下省略。

 といった具合です。もっと過激であったと、付け加えて言っておきます」



しゃがみ込んで頭を抱えるちゃんの肩を文次郎がたたき、留三郎が頭を撫でて、勘右衛門が両手を握りしめた。



「ちゃんとした調査報告出すから」
「文句言って悪かったな」
「頑張ります!」



ちゃんは三人の声援に笑顔で顔を上げた。



「じゃあ変わって」
「それは無理」「無理です」



それとこれとは別なのである。












つづいてみたよ



後押しがすごかったので続いてみましたよ。
ということで西の理由と誰が当たったのかでした。

え?結局潜入している場面がない?
・・・・・とりあえずのせてみたよ。