寄り道と賄賂
シロツメクサが一面に咲いている。
春の息吹に包まれた広い原っぱを風のように駆け抜ける少年がいた。
「だから団子屋は寄らない方がいいって言ったじゃんか!」
「だって、食べたかったんだ」
目の前に突然現れたウリ坊を軽々飛び越え、一人がため息をついた。
「しかも長次にあげるはずだったお土産も食べちゃうし」
「うっ。・・・食べてって団子が」
「言うわけないだろ」
突進してきた猪をさらりと交わし、もう一人の少年が苦笑いを浮かべる。
「ごめん」
「・・・・まあ、ちゃんと止めなかった俺も悪いし」
原っぱが終わり、崖が現れても二人は躊躇もせず飛び降りた。
そして、それぞれ手ごろな木に掴まり、軽い動作で次の木へと飛び移り、難なく地面に着地した。
「ともかく、新学期に遅刻することは間違いないから賄賂を持っていかないとな」
「賄賂?」
「お土産のこと」
道なき道を失踪していたその目の前に、突然大きな影が立ちふさがった。
獰猛な唸り声を上げるのは、冬眠明けで気が立っている熊。
二人は顔を見合わせ、にやりと笑った。
「学園長が熊カレーを食べたいって、随分前に言ってたよな」
「言ってた言ってた。まだ実行してないはず」
「先に準備運動やるか? 小平太」
「だって、長い休みで体なまってんじゃない?」
首を動かし。
肩をならし。
二人はほぼ一緒に、熊に突撃したのだった。
「誰が熊を取ってこいと言った誰が!」
「おおっ! 気が利くのう」
頭を抱える山田伝蔵と狂喜乱舞する学園長の姿が見られるのはそれから数時間後の話。
<END>
小平太がかわいくてしょうがない。