不運が集まれば














草むらを通り過ぎてしばらく行くと、上級生らが好んで罠を仕掛ける練習に使う競合区域に出る。
下級生はもちろん、上級生でも危険で近寄らない場所であるから誰かが悪戯に置かない限り、ここに箱がある可能性は低いだろうときびすを返した三人は、少し離れた木の陰にまたもや二年生がうずくまっているのを見つけた。



「一人だけ離れて、ここで毒虫捜索か?」
「いや、なんか違ってそうだよ」



留三郎に伊作が言い返し、「気になるなら声をかけるぞ。ってか、気にならなかったとしても声かけるけどな」と



「どうした作兵衛」



やはりまたしても、は後ろ姿だけで二年生の名前を言い当てた。

作兵衛こと、富松作兵衛は名前を呼ばれて振り返ったは振り返ったが、なんとも形容詞がたい絶望一色に染まった表情であった。
たちはギョッとして作兵衛に駆け寄った。



「なにがあったんだ?」
「消えたんです・・・」



そう言う作兵衛の手には、ちぎれた縄が2本。
首を傾げた留三郎と伊作に対して、は額に手を当てて空を仰いだ。



「どういうこと?」
「2年生には方向音痴が二人いてだな」



伊作の問いに、は神妙な顔で応じる。



「ろ組の次屋三之助と神崎左門は、それぞれ無自覚の方向音痴と決断力がある方向音痴なんだ」



決断力がある方向音痴とはそれ如何に?

首を傾げるは組二人がその所以を後ほど知ることになるのだが。
気の毒そうにが作兵衛の肩に手をやる様子を、二人は少し離れた場所から眺めていた。

作兵衛はちぎれた縄の先をじっと見つめて、ぽそりと呟いた。



「あいつら、熊にあったかもしれない」
「へ?」
「そうだ。あいつ等森の方に行って、お腹を空かせた熊に遭遇して危険な目に遭っているかもしれない!」
「おーい。作兵衛?」
「ああ! 俺が目を離したばかりに!!」



ぼろぼろと泣き出してしまった作兵衛に二人は固まるばかりだ。

いやいや。迷子になっただけだろうに。
一体全体どうしてそんな恐ろしい想像をしてしまったのか。
伊作のように不運スキルがあるのだろうかと、気遣わしげにを見やれば、はは組二人を見上げて、軽く肩をすくめただけだった。



「まぁ、あれだ。作兵衛は想像力が豊かなんだ」
「そ、想像・・・」
「過激な想像だな」
「友達思いの心配性なんだよ」



と、は慣れた様子だ。
作兵衛の顔を覗き、見る者を安心させる笑顔を浮かべる。



「ちょっと話は変わるんだが、かくかくしかじかで箱を探してるんだが知らないか?」
「・・・箱? いえ、見ていませんが。・・・・・はっ。もしや、あいつら箱を見つけて先輩に届けようと歩いているうちに崖からっっ!」
「いやいやいや想像力豊かって言葉ですませられるようなレベルじゃないぞ!?」
「そっか。箱を見つけた後もまだ三之助と左門が見つからないようだったらこの留三郎が捜索に加わるからそれまで頑張れ」
「しかも俺か!」
「そ、そんなおそれ多い!」



留三郎が頬を掻くのと、作兵衛が顔面蒼白で遠慮したのはほぼ同時だった。
はただ、からから笑った。



「はは。気が合いそうだな! じゃあ作兵衛も頑張れよー」



作兵衛が口を開こうとするのを頭を豪快に撫でることで封じ込めて、は伊作と留三郎と、箱探しに戻ったのだった。










つづく