水色の不在中












・皆本金吾の場合


今日は七松先輩の機嫌が悪い。

口が3になっていて、眉間にしわが寄っていて。
いつもは僕たちのことを気遣って走ってくれるのに、いつも以上に手加減がない。

ご飯が好きなのじゃなかったのかな。
夜間練習が物足りなかったのかな。

とにかく、いつもの先輩に戻ってほしいよ。

も、もう魂が・・・。








・時友四郎兵衛の場合


七松先輩がここ数日、機嫌が悪いみたい。
委員会活動をしたら治ってくれるかなぁと思ってたら、そうはならなかった。

うーん、なんでだろう。
中在家先輩と喧嘩したのかな。
中在家先輩も怒っているみたいだったし。

こんな時に限って先輩がいないんだよねえ。

帰ってきてー、せんぱーい。








・次屋三之助の場合



走り込み、水泳、バレー、塹壕堀り、裏々々山までマラソン。
今日の活動はとてつもなくハードだ。
このメニューをするにしても休憩を挟むのに・・・。

七松先輩はそわそわ落ち着きがなくて、いつも以上に周りを見てくれない。
金吾が委員会活動開始30分も経つ前に一度目の魂脱走をするという前代未聞の状態に陥ったというのに、まったく視界に入らなかったようだ。

それもこれも、先輩がいないからだ。
なんでいないんだろう。
もう4日になる。

そろそろ四郎兵衛も限界だろう。
どうすればいいのだろう。








・平滝夜叉丸の場合



頭脳明晰、身体能力抜群、容姿端麗、つねに学年トップのこの私だが!

ま。
あれだ。
できることとできないことはある。

そう、たとえば。
いけいけどんどんの委員長を止めることとか。

ああ、しかも、よりにもよって、先輩が学園長のお使いに出たまま、4日も帰ってきていないのだ。
そのために、ストッパー役の中在家先輩も宛にならない状態である。

しかーし!
絶望的な今の状況だからそこ!
そう。いまこそ、私の力を見せるとき!

って、ちょっと待て三之助。
お前どこを向いて・・・。

待たんかああぁぁぁあああ!!








・七松小平太の場合




ううむ。
どうもしっくりこない。
委員会活動をしているというのに、ずっと気もそぞろだ。

原因は分かっている。
このところずっと、大好きな水色を見ていないからだ。

はどこにいるんだろう。
まだ目的地に着いていないのだろうか。
もしかして、帰路についたのだろうか。
いや、ひょっとしたら今、この瞬間に学園に帰ってきているのかも。

うぬぬ、とうなっていたら、足首に四郎兵衛が張り付いていた。



「どうした四郎兵衛」



問いかけると、四郎兵衛は口から魂を半分出しながら言った。



「次屋先輩が迷子でぇーすぅ」
「ありゃ、いつのまに」



周りを見渡せば、いつの間にか三之助がおらず、それを追いかけたのか滝夜叉丸の姿もない。
ただ、金吾は木によりかかった状態で倒れていたが。

ふと、
風向きが変わった。
さっきまで届いていた匂いが嘘のように消え去っていた。

目だけで周囲を伺った。

別段、大きな変化はない。
しかし、たしかに何らかの動きがあったのだと、自分の勘が言っていた。

空を見上げて、私はハッと声を上げた。



「のろしだ」



あの色は・・・の帰還を知らせるものだ!



「帰ってきたんだ!」



きっととっても疲れているだろう。
ぐてーっと長屋につぶれているかもしれない。
なにか、精がつくものをプレゼントしよう!



「な、七松せんぱーーいいいい!!」



名前を呼ばれて振り返ると、迷子だったはずの三之助が、滝夜叉丸に迷子ヒモに繋がれてこちらに走ってきている。

おお!
これで学園に帰れる。
あとは、お土産だけ。



「おおーい」



手を振ると、滝夜叉丸は真っ青な顔で「挨拶している場合じゃありません!」と叫んだ。



「熊が出ましたーーー!!!」
「ひいいぃいいい!」
「ぎゃあああぁぁあ!!」



なんとナイスタイミング。
私は肩をぐるりと回した。



「こっちに来い滝夜叉丸、三之助!」



二人が私の後ろへ逃げるのとすれ違いに、熊に向かう。

成人した月の輪熊だ。
ビックサイズ。
これは喜ばれる。



「今日は熊カレーっ」



私は、勢いよくこぶしを突き出したのだった。














END