長次が小さく呟いた。
突然話すものだからまったく身構えていなかった小平太は聞き取ることができなかった。
だったら聞こえただろうか。
小平太は申し訳なく思いながら、長次に「もう一度言って」と、お願いした。
長次は嫌がりもせずに繰り返した。
「先生に聞こう」
「どの先生?」
「土井先生」
そう言われてハッとした。
そうであった。
土井半助は三年生時、大木雅之助の後任としてろ組の教科担任になった先生だ。
それに加え、三年、四年と火薬委員を連続して勤めたと、火薬委員顧問の土井とは仲がよかった。
五年生で違う委員になってからも土井の元にが顔を出している姿がよく見受けられた。
彼ならば知っているかもしれない。
そうと決まれば即行動だ。
六人は顔を見合わせると誰からともなく天井へ、床下へ、外へと散らばった。
天井の道を選んだ小平太は同じく天井を音もなく走っている文次郎に声をかけた。
「私は一年と二年の教室に行って聞いてみる」
「なら俺は三、四年だな」
頷きあうと左右に別れ、小平太は一年は組の教室の天井裏に辿り着いた。
今年、土井はここの教科担任だという話を聞いていたからだ。
しかし、そこに土井の気配はなく。
いるのは は組の子供たちのようだった。
がっくりと肩を落とした小平太は待てよ、と考えを改めた。
生徒達ならば土井がどこにいるのか知っているかもしれない。
小平太は天井板をはずし、逆さまに顔を覗かせた。
「なぁ、土井先生どこにいるか知らないか?」
「わあっ!!?」
教室の生徒がビクッと飛び跳ねた。
鼻から魂を出している子もいる。
とんだ魂が逃げ出さないように手裏剣で柱に射止め、小平太は一番冷静にしている生徒に話しかけた。
「土井先生探しているんだ。居場所知ってるか?」
すると、その生徒はうーんと首をひねった後、「みんな、何か知ってる?」と呼びかける。
全員の返事が「否」だったのを見て、彼はしゅんと頭を垂れた。
「ごめんなさい。僕も知らないです」
「んー。そっか」
ならば次は二年生だ。
「邪魔したな」
と、天井板を元に戻した小平太の耳に大声が聞こえた。
「土井先生発見!!」
伊作の声だった。
たしか、伊作は外に出て行った一人。
小平太はすばやく屋根の上に昇ると、辺りを見渡した。
よくよく目を凝らせば、北の方に疾走している留三郎を見つけた。
「留三郎!!」
呼びかけると、すぐに留三郎は小平太に気付き、一点を指差した。
仰ぎ見ると、のろしが上がっている。
「ナイス伊作」
どこにいるのか、一目で分かる。
小平太は屋根から屋根へと飛び移りながら、のろしの元へと急いだ。
「一体何なんだ!?」
小平太がついた時には、皆がそろっていた。
中央には長次の縄標によりぐるぐる巻きにされた土井半助。
「六年生がそろいもそろって」
「聞きたいことがあるんです」
最後に降り立った小平太を見上げ、土井は訝しげに眉をそばめた。
「何だ?」
「のことです」
長次が囁くと、なぜか土井はキョトンと目を瞬かせた。
「・・・」
そう呟いた後、「ああ」と頷く。
「本人から聞いていなかったんだな」
「に何かあったんですか?」
「たいしたことじゃないはずだが・・・」
土井はそう言うと、簡単に長次の縄標を解いて立ち上がった。
「新学期前に学園長から任務を言い渡されて、外に出ているぞ」
「じゃあ、学園を辞めたわけでは・・・」
「ない」
土井は大きく否定した。
なんだ。
そうか。
小平太がホッと息を吐くと、周りからも同じため息が聞こえた。
土井が思わずと言った感じに噴出す。
「心配することじゃないだろう。はお前たちのことが好きだから」
「私たちも、のこと好きです!」
「私たちと言うと、私のことも勘定に入れたのか」
小平太が胸を張ると、仙蔵が微妙な笑いを浮かべた。
それを見て、土井は快活に笑ったのだった。
<END>
なんだかんだ言って、仙様も心配しているのです。