そして 笑って



















木の上には座っていた。
立ち上がれば木の天辺に顔を出せるほど高く。
少しでもバランスを崩したら、細い枝が折れて下まで真っ逆さまだろう場所にだ。

しかしは、目を閉じて、両耳に手を当てたまま、足を枝にからませて、微動だにしない。
そして、かすかな言い合いを聞き取り、ため息をついた。



「やっぱりか」



そう呟き、水色の瞳を開く。
その口は弧を描いていた。



「こりゃ長期戦だな」



はポンと枝から降りた。
真下にあったほかの枝に着地し、また飛び降りる。

それを3回ほど繰り返してやっと地面を踏んだは、木の幹に寄りかかり、武器の調整をしている長次に笑いかけた。



「長次の読み通りだ」



どうだったと聞かれる前に、告げる。



「ターゲットは迷子の模様」



ただいま四年ろ組は課外授業中だ。
二人、もしくは三人で一班になり、先生から渡された密書に書かれた人物を尾行し、その内情を探るというもの。
お約束のように、長次、小平太は同じ班になり、クサウラベニタケ城の忍者と思われる二人の男をずっと尾行していた。

しかし、どうも森に入ってから様子がおかしい。
何時間立っても、男たちは森から出ようとしないのだ。

尾行に気付いたのかもしれない。
そう考えたに対して、長次は「道に迷っているだけだろう」と、読んだ。
そうして、長次の読みが正解だったのである。



「あの様子だと朝になるのを待って、動く気だろう」
「・・・・こっちも野宿になるな」
「そうなるね」



は長次の小さな声を拾って、苦笑を返した。
学園に戻れるのは随分後になりそうだ。

は長次の向かい側に腰をおろした。
懐から、学園を出たときに先生から渡された地図を取り出し、長次にも見えるように広げる。
は、自分達がいる場所にどんぐりを、ターゲットのいる場所に小石をそれぞれ置いた。

それを見て、長次が囁く。



「あまり離れてない」
「うん。と言っても、この辺りに崖がある」



は、丁度二つの駒の間を指差した。



「こっち側が崖の上になっているから、薪をしてもあっちに煙は見えないはずだ」



もう秋も終わりに近付いている。
いくら熱さや寒さに体を慣らしている忍たまと言えど、体温の変化は注意しなければならない。
「手がかじかんでうまく手裏剣が投げれませんでした」なんてことがあっては困る。
大事な時にこそ、ハプニングとは起きるものだ。
特に、この三人組で行動する時は。

・・・不運小僧である伊作がいるときの比ではないが。



「小平太遅いな」



は暗くなってきた周囲を見渡した。
耳を澄ましてみても、何の声も聞こえない。
ただ、木々がざわめくだけだ。

は長次を見やった。



「小平太は何をしに行ったんだ?」
「・・・ご飯の材料を取ってくると・・・・・・」
「ご飯・・・・」



一体何を取ってくる気なのか。
はタラリと汗をたらした。

小平太は四年生になっても未だ、食べれるものとそうでないものの区別がつかない。
先月、はワライダケを食べさせられ、一時間ほど笑いが止まらなかった。
長次は五日前に痺れ草を食べさせられた。

二人は互いの顔を見合わせると、阿吽の呼吸で頷いた。



「調理の前にまずは選別だ」



親友と言えど、そこは信用できない。
今のうちに、山には生息している植物のおさらいをしておこうと、忍たまの友を取り出したは、不思議な音を拾い上げた。

反射的に手が懐のくないへ向かう。
音の聞こえた方を睨みつけたの呼吸を受け取り、長次も縄標を構えた。

ずるずると、大きなものを引きずる足音。
それは人の出す足音であった。
しかし、引きずっている音のせいで、何ものの足音、呼吸音か聞き取れず、が目を細めた時だ。

見つめる先の草むらから、熊が顔を覗かせた。

と長次がギョッと目を剥けば、続いてのんきな声が緊張を解いた。



「見て見て! 熊に勝ったぞ!!」



熊がしゃべったわけもなく。
その熊を背中に背負った小平太がしゃべったのだ。

小平太は呆然とする二人の前まで歩いてくると、熊をズンと下ろした。



「きのこを取ろうとしてたんだけど、こいつが出てきて襲いかかってきたから勝負してやった。これ、食べれるかな?」
「あー。まぁ・・・・うん。食べれるよ」



誰が此れを捌くんだよ。

あまりにも小平太が瞳を輝かせるものだから、突っ込むことができず。
と長次は地面に倒れた熊の巨体を見つめた、肩を落としたのだった。



























END